業務の切り出しとは、既存の業務を工程単位に分解し、障害のある方が担える形に再設計して、任せられる仕事をつくり出す取り組みです。「任せる仕事がない」という悩みの多くは、仕事そのものの不在ではなく、業務が大きなまとまりのままで分解・再設計されていないことから生じます。
- 「仕事がない」の正体は、多くが業務の“未分解”
- 切り出しは棚卸し→工程分解→候補抽出→再設計→試行の5ステップ
- 配置は「部門配置型」と「集中雇用型」の2類型。自社に合う形を選ぶ
- 「余った雑務の寄せ集め」にせず、本人の強みと成長を設計する
- ハローワーク・支援機関の無料支援を使える
なぜ「任せる仕事がない」が起きるのか
業務が担当者に属人化し、大きなまとまりのままでしか見えていないと、任せられる形が見つかりません。実際には、定型的な作業や付随的な工程が各部署に少しずつ分散して存在します。「切り出し=手が空いた人への雑務の押し付け」という誤解も、前に進みにくくする要因です。まずは業務を見える化し、工程に分けて捉え直すことが出発点になります。
業務切り出しの5ステップ
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| 1. 棚卸し | 部署ごとに業務を洗い出す(部署責任者へのヒアリングが有効) |
| 2. 工程分解 | 業務を作業単位に分ける |
| 3. 候補抽出 | 切り出せる定型・付随作業を選ぶ |
| 4. 再設計 | 手順化・マニュアル化して任せる形にする |
| 5. 試行と調整 | 小さく始め、本人と相談しながら整える |
業務選定の目安(どんな作業が向くか)
最初の切り出しでは、次の条件に近い業務ほど立ち上がりがスムーズです。
- 手順が明確で、マニュアル化できる
- 臨機応変な判断・例外対応が少ない
- 一定の量が安定して発生する
- 納期に極端な切迫がない
ただし「定型作業だけをずっと」ではなく、慣れに応じて範囲を広げる成長の設計までセットで考えることが、定着と戦力化につながります。
部署別の切り出し事例マップ
| 部署 | 切り出し候補の例 |
|---|---|
| 総務・庶務 | 郵便物の仕分け・発送、備品管理・発注、会議室設営、名刺や社内証明の手配 |
| 人事・経理 | 書類のPDF化・ファイリング、伝票と領収書の照合、勤怠データの一次チェック、押印漏れの確認 |
| 営業支援 | 見積書・資料の作成補助、顧客リストの整備、CRMへのデータ入力、アンケート集計 |
| IT・Web | データクレンジング、画像加工・タグ付け、Webページの更新、動作チェック |
| 物流・店舗・現場 | 検品、梱包、ラベル貼り、在庫整理、備品補充、清掃・メンテナンス |
配置の2類型(部門配置型と集中雇用型)
| 部門配置型 | 集中雇用型(業務支援チーム型) | |
|---|---|---|
| 形 | 各部署に配属し、その部署の業務を担当 | 複数名でチームを組み、各部署から業務を集約して受託 |
| 向くケース | 担当部署に安定した業務量がある/現場の受け入れ体制が整っている | 各部署の業務が少量ずつ分散している/マネジメントを専任化したい |
| 注意点 | 部署の繁閑に左右されやすい。現場任せにしない支えが必要 | 業務の集め方と優先順位づけの仕組みが要る。社内から「見える」工夫を |
どちらが正解ということはなく、自社の業務の分布と受け入れ体制で選びます。集中雇用型で始めて、本人の得意が見えたら部門配置へ広げる段階設計も有効です。
棚卸しシートの項目例(そのまま使えます)
- 業務名/発生部署/頻度(日次・週次・月次)/1回あたりの量・時間
- 手順書の有無/判断・例外対応の多さ(少・中・多)
- 納期の厳しさ/必要なツール・環境/個人情報の取り扱い有無
- 切り出し判定(そのまま可・再設計すれば可・不可)と理由
この形式で各部署に記入してもらうだけで、候補業務のリストが立ち上がります。
よくある失敗と改善(NG例・OK例)
| NG例 | OK例 |
|---|---|
| 余った雑務を寄せ集める | 本人の強みに合う作業を選び、成長の道筋も設計する |
| 口頭で曖昧に渡す | 手順書にして基準を明確にする |
| 一度に大量に任せる | 小さく始めて段階的に増やす |
| 現場任せにする | 人事と現場が一緒に設計し、定期的に見直す |
現場を動かす「業務切り出し研修」
人事が「業務を切り出してください」と号令をかけるだけでは、現場は動きにくいものです。配属先の管理職に向けて、障害者雇用の意義を共有し、実際に自部署の業務を書き出すワークを行うと、具体的なアクションにつながります。書き出した作業を「任せられる/要調整/難しい」に仕分けるだけでも、候補は見えてきます。
外部の無料支援を使う
- ハローワーク — 求人だけでなく、雇用管理や業務設計の相談もできます
- 地域障害者職業センター(JEED) — ジョブコーチ支援や職務再設計の専門的助言
- 就労移行支援事業所・障害者就業・生活支援センター — 実習の受け入れから始めると、業務との相性を試せます
社内だけで悩まず、実習→切り出しの調整→採用という順で外部と組むと、ミスマッチを減らせます。
実習から始める(お試しの設計)
いきなり採用ではなく、就労移行支援事業所などと連携した職場実習の受け入れから始めると、切り出した業務との相性を双方が確認できます。実習で「この業務は手順書があれば任せられる」「この工程は再設計が要る」といった発見が得られ、採用後のミスマッチが減ります。実習の位置づけ(労働に当たらない範囲・保険の扱いなど)は、受け入れ前に支援機関と確認しておきましょう。
切り出し後の運用(回し方の設計)
- 依頼窓口の一本化 — 各部署からの業務依頼を受け付ける窓口・様式を決める(集中雇用型では特に重要)
- 優先順位のルール — 納期と量を見て引き受けを判断する基準を決め、抱え込みを防ぐ
- 品質のフィードバック — 完了物への具体的なフィードバックを依頼部署から返す仕組みにする(成長設計の材料になる)
- 定期的な業務の棚卸し — 四半期ごとに業務量と内容を見直し、減った業務の補充と新しい職域の追加を行う
「数合わせ」で終わらせない
業務の切り出しは、法定雇用率の達成そのものが目的ではありません。本人の強みに合う業務を設計し、合理的配慮とセットで整えることで、採用した方の定着と戦力化につながります。必要な雇用数の概算は雇用率シミュレータで確認できます。全体像は障害者雇用の進め方 完全ガイド、受け入れ側の準備は現場の受け入れ体制づくりもご覧ください。
よくある質問
- 業務の切り出しとは何ですか?
- 既存の業務を工程単位に分解し、障害のある方が担える形に再設計して、任せられる仕事をつくり出すことです。
- 何から始めればよいですか?
- 部署ごとの業務棚卸しからです。本文の棚卸しシート項目例を使い、部署責任者に記入してもらうと候補が立ち上がります。
- 切り出す業務が「雑務の寄せ集め」にならないか心配です。
- 本人の強み・希望と照らして選び、手順書で基準を明確にし、慣れに応じて範囲を広げる成長設計までセットで考えることで、意味のある職域に育てられます。
- 1人分の業務量になりません。どうすれば?
- 複数部署の少量業務を組み合わせる(集中雇用型)、短時間勤務(週20〜30時間=0.5カウント等)と組み合わせる、といった設計が有効です。
- 切り出した業務がなくなったら?
- 単一業務に依存しないよう複数の業務を組み合わせておき、定期的な棚卸しで補充します。デジタル化などで新しい職域をつくる視点も有効です。
- 本当に任せる仕事がないときは?
- 分散した定型作業の集約や、デジタル化による職域開発を検討します。外部の支援機関に業務設計ごと相談する方法もあります。
出典: 厚生労働省および独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)の公表資料(最新の年度版)をご確認ください。
